まだ1月を過ぎたばかり(執筆時時点)ですが、2025年も複雑で不安定な1年になる可能性が高まっています。市場心理を左右する要因は、政治情勢、マクロ経済の先行き、国・地域によってばらつきがある金融政策です。ドナルド・トランプ氏の米大統領復帰によって貿易戦争の脅威は増す一方です。そうした背景は債券にとってプラスになるとabrdn(アバディーン)では考えています。

主な動き

2024年年初、ヘッドライン・インフレが想定以上に粘着的であることへの懸念が高まりました。しかし、年後半に入ると複数の中央銀行は市場の予想どおり利下げを実施しました。

過去2か月、トランプ氏が大統領選で勝利すると、その政策がインフレ要因になるとの懸念から米国債の中長期利回りは大幅に上昇しました。地政学的緊張もイールドカーブの上昇圧力を高めました。

世界の経済成長率は、企業利益率の改善を反映して予想以上に底堅く推移しました。クレジット・スプレッドは、企業業績の向上に下支えられて2024年を通して大幅にタイト化しました。

こうした動向は債券リターンに様々な影響をもたらしました。例えば、国債に特化した戦略は、社債や新興国債券を主要運用対象とする戦略の好パフォーマンスに後れをとりました。

現在も続くオールイン・イールドの上昇傾向が債券の魅力を高めています。今後さらに新しいテーマが浮上してくれば債券投資にとって一層の追い風となる可能性があります。

2025年の主要テーマ

abrdnは先進国の金利政策について、開きが顕在化すると予想しています。米連邦準備理事会(FRB)は、トランプ新政権の政策の影響を見極めるため、すでに利下げを見送りました。FRBによる年後半の利下げ回数予測は「ゼロ」から「2回」というのが市場コンセンサスです。一方、景気実態への対応が間違いなく後手となっている欧州中央銀行(ECB)については、経済的な逆風の中でより大幅かつ急速な利下げが予想されます。英国では、頑固なインフレがバンク・オブ・イングランドに一服感を与えていましたが、2025年1月の数字が予想を下回ったため、さらなる利下げの可能性が浮上しています。

利回りとスプレッド

グローバル投資適格債のオールイン・イールドは先進国、新興国のいずれの市場でも魅力的な水準にあると考えます。バークレイズ・グローバル総合社債インデックスの最終利回りは現在4.8%と過去平均の3.1%(2014年12月以降)を超えています。過去10年で見ると、すべての主要債券サブ資産クラスの直接利回りは長期平均を大きく上回って推移しているのがわかります(図表1)。これは、インカムを求める投資家にとって魅力的な水準と言えるでしょう。

利回りの上昇は、リセッション期以外ではスプレッドの縮小につながることがよくあります。ただし、スプレッドが長期平均をすでに下回っていることから、さらなるスプレッドの縮小の可能性は全体的には限られそうですが、一部については若干の縮小の余地があるかもしれません。

図表1:債券全体の最終利回り推移(2014年12月~2024年12月)

マクロ環境は投資適格債に好条件

国内総生産(GDP) に目を向けると、過去の経験から、投資適格債にとっては一般的に高成長よりも緩やかな成長の方が望ましいことがわかっています。1948年以降、投資適格債は成長率が1~2%だった期間に超過リターンをもたらしました。高成長期(3%超)には比較的、低調でした。その理由は、高成長期を迎えると投資家の焦点が債券から株式にシフトする傾向があるからです。現状から判断すると、abrdnは2025年の経済成長は緩やかな水準になると考えており、投資適格債にとっては良好な環境となるでしょう。

相対的優位性

債券は、リスクおよび相対的バリュエーションを基準とする他の資産クラスとの比較で、その優位性が際立っています。堅調なファンダメンタルズ、高い利回り、低いボラティリティ、資本構造での上位の位置を特徴とする債券は、通常の株式よりリスクが低く、潜在的により高いリターンの投資オプションです。5年間の利回り比較は、米国社債利回りが5.2%で、 S&P 500株式益利回り の3.4% [1]を上回っており、債券の相対的なバリュエーションが魅力的であることを示しています。

キャッシュからシフト

投資家がキャッシュやMMF(マネー・マーケット・ファンド)から債券にシフトするのには理由があります。債券は、100ベーシス・ポイント(bps)を超える超過利回りをもたらす可能性を備えているため、投資家は効果的にリスクを管理しながら収益を得ることが可能です。債券には大きなアップサイドの可能性があります。abrdnの推定では、債券市場への投資のために「出番」を待っている資金総額は約7兆米ドルに上ります。

おわりに

債券を「信じる理由」をご紹介してきました。利回りは歴史的に魅力的で、そのファンダメンタルズは強固だと考えます。複雑で予測不可能な世界において、債券は株式などの高リスク資産に比べて安全性とバリュエーションで優位性があると言えるでしょう。

abrdnは、債券がもたらす投資機会の活用はポートフォリオに大きな価値をもたらし、経済、政治、市場の激動の中でもタイムリーな戦略的動きを可能すると考えています。

  1. S&P、2024年12月