abrdn(アバディーン)のDeveloped Market Creditの責任者、Felix Freundが2025年に投資適格債を支えることが予想される8つの主要因について解説します。

1. トランプ不安要素は織り込まれ済み

ここ数週間、グローバル債券市場に恐らく最も大きな影響を及ぼした要因は、ドナルド・トランプ氏の米大統領への復帰でした。市場は、第2次トランプ政権による関税引き上げ、移民に対する厳しい取り締まり、成長重視政策が米国のインフレを加速させると懸念しています。その結果、米国の利下げ期待は大きく後退し、米国債利回りは上昇しました。

米国債の10年利回りは2023年10月の最高値である5.0%超に向けて上昇し、投資適格債を含む債券のリターンを押し下げました。しかし、利回り上昇の大きさは、トランプ関連リスクがおそらく織り込まれたことを意味しています。

2. トランプ政策にはプラス要因も・・・

市場の関心は主としてトランプ政策のインフレへの影響に集中しています。しかし、アップサイド要因の可能性もあります。まず、トランプ大統領の政策が成長、減税、規制緩和に重点を置いたものになるという期待が米国の経済成長と企業収益にプラス要因となり、社債のパフォーマンスを下支えすることが考えられます。次に、トランプ氏がイスラエルとパレスチナの紛争、ロシアのウクライナ侵攻の終結に向けて実効力のある成果を上げれば、投資家のトランプ政権への見方が好意的なものになる可能性があります。

3. 魅力的なオールイン・イールド

投資適格債のオールイン・イールドは大幅に上昇しています。その結果、インカム収益とバリュエーションの双方の観点からも資産クラスとしての魅力が増しています。グローバル投資適格債の利回りは現在4.8%と過去10年平均の3.1%を超えています(図表1)。利回りの上昇は、株式を含む他のリスク資産との対比でも投資適格債のバリュエーションが向上していることを意味します。例えば、現在の投資適格債利回り4.8%は、S&P500の株式益利回り3.3%を大きく上回っています[1]。

図表1:グローバル投資適格債利回りとS&P500インデックス益利回りの推移

4. 投資適格債の相対的な安全上のメリット

投資適格はその構造上の特性により、他の資産よりもリスクが低くなります。株式と比較すると、資本構造では上位に位置し、通常はより安定したキャッシュフローをもたらすため、リターンの変動は、より小さく、より安全です。当然、その反面、アップサイド(上昇)の可能性は低くなります。しかし、S&P500は2年連続で25%超のリターンを記録しており、株式のバリュエーションは割高になっています。そのため、投資家の関心が投資適格債などよりリスクの低い資産に移る可能性があるでしょう。

投資適格債には景気後退局面でも、ある程度の回復力を発揮します。投資適格債の多くを下支えしているのは、高格付けで、堅固なバランスシートを誇る安定した企業です。それに加えて、通常、経済成長の鈍化や投資家の間におけるリスク回避の高まりなどによる国債利回りの変化に反応する投資適格債は一定程度のダウンサイド・プロテクションとなっています。

5. 堅調な企業ファンダメンタルズ

投資適格社債の安定したキャッシュフローの源は重要な財務ファンダメンタルズに連動しており、現在、強固で社債を下支えしています。具体的には、低水準にとどまっている財務のネット・レバレッジ・レシオ、十分な水準に維持されているインタレスト・カバレッジ・レシオ、高いプロフィット・マージンなどの主要指標が含まれます。米国企業の利益(税引き後)の総合インデックスは過去最高値に近い水準で推移しています(図表2)。

図表2:米国企業税引き後利益総合インデックスの推移(2014~2024年)

6. 利下げ環境

金利引き下げ環境は歴史的に見て、投資適格債にとっては好ましいことです。それは、利下げに応じて米国債利回りが下がると、リターンが押し上げられるからです。しかし、非常に異例なことですが、今回は米国ではそうなっていません。連邦準備理事会(FRB)は2024年6月に今回の利下げサイクルを開始しましたが、米国債の利回りはその後上昇しています。その要因の一つとしては第2次トランプ政権の誕生でインフレ懸念が強まったことを反映したものかもしれませんが、abrdnでは、最終的には時間の経過とともにより正常なパターンに戻ると考えています。

欧州の状況は米国ほど異常ではありません。欧州債券の利回りは、米国債利回りの影響を受けつつも、欧州中央銀行(ECB)が2024年6月6日に利下げに転じたときよりも依然として低い水準で推移しています。米国とは異なり、欧州の利下げ期待は後退しておらず、ECBは2025年に約100ベーシスポイント(bps)の利下げを実施すると予想されています。

7. MMFからの資金シフトの可能性

FRBはフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を2022年前半の0.00~0.25%から2023年半ばの5.25~5.50%まで引き上げました。それに応じて、大量の投資資金がMMF(マネー・マーケット・ファンド)に流れ込み、その流入総額は2022年末の1.6兆ドルから2024年第3四半期には6.8兆ドルに膨らみました。しかし、金利の低下に伴って、資産運用に占めるキャッシュ(MMF)の割合は下がっています。その結果、abrdnでは、投資家サイドの手もと資金のリスク資産、特に相対的に安全な投資適格債へのシフトが始まる可能性があると考えています。

図表3:米国MMFの金融資産総額の推移(2014~2024年)

8. 通常、穏やかな成長は投資適格債には「スイートスポット」

歴史的に見ると、投資適格債が最高の平均リターンを記録しているのは、高成長期ではなく、1~3%で推移する穏やかな成長期です[2]。投資適格債の2大発行地域である米国と欧州の2025年経済成長率は、abrdnのエコノミストの予測によると、それぞれ2.0%と1.1%という穏やかな伸びになる見通しです[3]。

  1. 2025年1月24日
  2. Morgan Stanley (1948~2024年を基準)
  3. abrdn Global Macro Research、2024年12月末